【書評】「どうで死ぬ身の一踊り」西村 賢太 (著)

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今回は、「どうで死ぬ身の一踊り」という小説をご紹介したいと思います。

「どうで死ぬ身の一踊り」
西村 賢太 (著)
出版社:講談社 (2009/1/15)
ISBN-10:4062762536
ISBN-13:978-4062762533

本作品は、2006年2月に講談社から単行本が出版され、2009年1月に上記の文庫本が出版され、その後、2012年9月に新潮文庫、2019年3月に角川文庫で出版と、3度も復刊されています。

本書の裏表紙には、以下の内容紹介があります。

大正時代に極貧の生活を赤裸々に描いた長篇小説『根津權現裏』が賞賛されながら、無頼ゆえに非業の死を遂げた藤澤清造。その生き方に相通じるものを感じ、歿後弟子を名乗って全集刊行を心に誓いつつ、一緒に暮らす女に暴力を振るう男の、捨て身とひらき直りの日々。平成の世に突如現れた純粋無垢の私小説。

本作品には『墓前生活』、『どうで死ぬ身の一踊り』、『一夜』の三篇が収録されていて、表題の『どうで死ぬ身の一踊り』は、2006年に「第134回芥川賞候補作品」、「第19回三島由紀夫賞候補作品」に選出されています。

大正期の小説家・藤澤清造の作品に出会い、そして、その不遇な人生に共鳴し、“没後弟子”となり、師と仰ぐ藤澤と同じく、自らも私小説を書くようになった西村賢太氏。

本作品に収録されている三篇すべてが藤澤清造に関係しているのですが、特に最初の一遍である『墓前生活』では、西村氏が藤澤の出身地であり、その墓がある石川県七尾市の寺に毎月の月命日に墓参し、終いには寺から藤澤の墓標を貰い受けて自宅に保存するに至り、藤澤清造全集と伝記の刊行を企てる様子が描かれています。

本作品は、藤澤清造という一人の小説家に傾倒して ― というか、傾倒を超えて、もはや身も心も捧げるほどに執着して ―「没後弟子」を自称し、藤澤清造とそれにまつわる西村氏自身の話を描いた私小説です。

そして、『どうで死ぬ身の一踊り』、『一夜』の二篇では、藤澤清造の話に加えて、西村氏が一緒に暮らす女との話が絡んできます。

上記のとおり、本作品は、その題材からして非常に変わっていて、この小説を読んだ多く人は、おそらく「今までこんな小説は読んだことがない」という感想を持つのではないかと思います。

少なくとも自分にとっては、この作品自体が「良い・悪い」、「面白い・面白くない」という以前に、自分が今までに読んできた他の作家のどのような小説・ノンフィクション・エッセイ作品とも比較することができないほど特異なものでした。

そして、西村賢太氏については、著者プロフィールとして最終学歴が「中卒」であることが記載されているのですが、彼の文体の特徴として、漢語的な語句を含む、聞き慣れない単語や熟語が多用されています。

普段、他の作家の小説を読んでいてそのようなことはないのですが、本作品の中には、漢字の読み方が分からない漢語的で難解な言葉が多く使われているため、読み終えるまでに時間がかかりました。

出版社または西村氏本人による意図的なものなのかどうかはわかりませんが、作者紹介で「中卒」と記載していることが、そうした難しい言葉の多用や、やや難解な文体・文章と相まって、ギャップというか、意外性を感じさせます。

その一方で、それらとは真逆とも言える、くだけた表現やユーモラスな描写も多く、普通に考えたら非常にアンバランスな文章になりそうなものですが、西村氏の文体は絶妙なバランスを保っています。

また、上述のとおり、『どうで死ぬ身の一踊り』が、芥川賞候補作品に選出されていることからも分かるように、本作品は純文学であり、そして、かなり純度の高い純文学という感想を持ちました。

『どうで死ぬ身の一踊り』、『一夜』の二篇では、 一緒に暮らす女との生活の中で、西村氏が女に対して振るう暴力・暴言、そんな自分をどうにも止められずに、ちょっとしたことですぐに腹を立てては、すぐに手が出てしまったり、モラハラというべき心無い言葉を口走ってしまったりということを繰り返しては、その度に後悔している様子や心情が赤裸々に描かれています。

「よくもまあ、これほどまでに自分の醜さや下卑た部分を晒せるものだな」という感想しか出てこないほどに、その度胸というか、開き直りには、ある意味、感心させられるのと同時に、読んでいて呆れるほどでした。

本作品(特に『どうで死ぬ身の一踊り』、『一夜』の二篇))を読むと、まるで著者のクズ男っぷりが纏っている負の感情というか、負のオーラのようなものに引きずり込まれるかのように、一緒に心が沈んでしまうかもしれません。

特に、自己肯定感が低い人や、自分自身のことを「負け組」や「非リア充」と思っている人、または、つらい状況にある人や、気分がひどく落ち込んでいる人が読むと、気持ちがどんよりしたり、暗い気持ちになってしまったりするのではないかと思うほどです。

個人的な話になりますが、表題の『どうで死ぬ身の一踊り』を読んでいた時に、ちょうど私自身が、今までの人生の中で最も不愉快といえるような酷い出来事に巻き込まれていた最中で、どういうわけか作中の著者の荒んだ生活(その原因は著者本人に起因するところが多く、自業自得と言えるのですが)に、自分のひどく落ち込んでいた心が共鳴してしまったのか、底なし沼の中に沈んでいくかのように、気持ちがどんよりと深く沈んでいく感覚に陥ったことを今でも鮮明に覚えています。

作中で著者が語っている彼自身の日々の出来事や事件と、それらについての著者の心情には、私小説であるが故の生々しさとリアリティーがあり、それは時に非常にネガティブなものであり、時に非常に滑稽であり、そうした諸々の出来事と著者の開き直りともとれる赤裸々な感情の吐露が、一部の読者の心にはダイレクトに突き刺さるのではないかと思います。

平成の世に登場した、ガチの無頼派作家・西村賢太氏の「どうで死ぬ身の一踊り」は、人によって好き嫌いが大きく分かれそうな作品ではありますが、今の時代の他の現役作家の作品とは比べることができないほど、とにかく強烈な個性を放つ純文学作品で、自分は西村氏の他の作品も読んでみたくなりました。

Amazon.co.jp: どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫) 電子書籍: 西村賢太: Kindleストア
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ところで、『どうで死ぬ身の一踊り』の中でも少し触れられていますが、西村氏が少年時代に、父親が性犯罪事件を起こして逮捕され、それにより両親が離婚したことが、西村氏のその後の人生や人格形成に大きな影を落としたことは想像に難くなく、そのような生い立ちが、氏の人生のみならず、氏の作品に大きな影響を与えているというか、投影されているのは間違いないでしょう。

残念なことに、西村賢太氏は、2022年2月に54歳という若さで急逝されました。

「どうで死ぬ身の一踊り」を読んで、彼の他の作品も読んでみたいと思うようになったので、次は、2011年に第144回芥川賞受賞を受賞し、映画化もされた「苦役列車」を読もうかと思っています。

苦役列車


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