【書評】「転がる香港に苔は生えない」星野 博美 (著)

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今回は、「転がる香港に苔は生えない」という本をご紹介したいと思います。

「転がる香港に苔は生えない」
星野 博美 (著)           
出版社: 文藝春秋 (2006/10)
ISBN-10: 4167717077
ISBN-13: 9784167717070

本書は、ノンフィクション作家・写真家の星野 博美さんが、香港の中国返還の瞬間(1997年7月1日)を体験する為に、中国返還前後の香港に約2年間暮らし、彼女の香港の友人・知人たちの話を含む、彼女の体験を綴ったノンフィクション作品です。

因みに、本書は、第32回大宅壮一ノンフィクション賞(2001年)の受賞作です。

大宅賞受賞者一覧|日本文学振興会 – 文藝春秋

本書は623ページと、かなりボリュームがありますが、のっけから面白く、 飽きることなく読めました。

特に、香港が中国返還まで半年を切った頃の話から始まる「第3章 返還前夜」からは、話の展開が一段と面白く感じ、最終章「第7章 香港の卒業試験」、あとがきに該当する「二〇〇〇年三月十五日、日本時間午前二時二十分 浅い眠りの中で見る夢は」まで、夢中になって読みました。

本書において、著者の星野さんは、当時の香港の様子を冷静で鋭い観察眼で客観的に伝える一方、彼女自身の体験を通じて湧き上がる感情や心情、そして、彼女の香港の友人・知人たちの心情も詳細に描いています。

また、友人・知人たちとの会話も多く盛り込まれていることにより、ノンフィクション作品でありながら、同時に私小説を読んでいるような気分にもなりました。

返還前後の2年間という、歴史的な大転換期における香港での生活体験と、当時の香港市民の置かれていた状況や返還に対する様々な思いが綴られていて、読んでいて、非常に刺激的でした。

また、変化の激しい当時の香港で、香港の人々が、将来どのように変化するか全く想像のつかない香港という場所で暮らし、働き、どう生きていくかを模索している様子や、生々しい生活感が本書からヒシヒシと伝わって来ました。

その当時、私自身も何となく返還前の香港を見ておきたくて、1996年の年末から1997年の年始にかけて、会社の年末年始の休みを使って、香港に一人旅をしました。

それから20年以上の歳月が流れ、今から5年ほど前に、以前の勤務先の香港支社で働く同僚(香港人)と話す機会がありました。

その時に聞いた話では、当時、私がバックパッカーとして一人旅をした時にうろつき回った、怪しげな雰囲気を漂わせていた場所も、今ではすっかり綺麗に様変わりしているそうです。

1996年から既に25年以上も経っていますから、ただでさえ変化の激しい香港は、その同僚の言ったとおり、随分と変わってしまったことでしょう・・・。

閑話休題、本書の話に戻ります。

この本から私がもっとも強く感じたのは、「リアルな生活感」と「逞しい生命力」です。

日本の社会では随分と昔に失われてしまった、がむしゃらな、剥き出しの生活感、余計なことを考えている暇も無いほど、毎日を走り続けている様子が随所に描かれています。

生産現場で働く労働者もオフィスワーカーも皆、絶え間ない変化の中で、将来どのように現状から脱却し、如何にしてより良い状況に自分の身を置くか、または、海外移住という選択肢を含め、どのように自分たちの生活にとって物心両面からより良い場所に移動し、生活環境どう変えていくのかを、常に考え、常に決断を求められることが当たり前の社会の中で日々生活している香港の人たちに衝撃を受けました。

国も何も信じていなくて、信じられるものは、カネであり、家族や深い付き合いのある仲間だけ、といった感覚・・・。

本書は、星野さんの、その独特な感性、視点、文章のスタイルが相まって、非常に魅力的で刺激的な作品となっています。

そして、彼女の強烈な香港愛を感じずにはいられません。

今の日本社会とは、あまりにかけ離れた世界が描かれている本書を読むことで、日本社会の中で生きる自分の生活・人生を見つめ直すキッカケにもなるかと思います。

実際、少なくとも私にとっては、当時の香港の人たちの生き方を知ると同時に、「では、自分はこれからの人生を如何にして生きていくのか?」ということについて、深く考えさせられる一冊となりました。

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